藤沢周平氏の○○剣〇〇シリーズ大好きです。
藤沢周平氏の作品ではたそがれている武士、落ちぶれた武士、好色な武士などいわゆる武士らしからぬ武士が主人公になることがあり、そんな主人公が活躍する様は痛快です。
それにしてもいろんな秘剣を作り出すものです。
恐ろしげな剣がある一方で、ん?と思う名前の剣もあります。でもそんな剣の方がむしろ面白い!
特に私が好きなのは「臆病剣松風」でしょうか。
私は常々、本来臆病な人ほど実は敵に回すと恐ろしいのではないかと思っています。普段から周りのささやかな変化に気がつき、機嫌を損ねないように人に気を遣い、常に神経を張り続けて、危険を察知したら真っ先に逃げるような臆病な人ほど、いざという時のためにあらゆる場面を想定して周到に備えているのではないか?
「臆病剣松風」に出てくる瓜生新兵衛は地震があると裸足のまま一目散に逃げ出す、絵に描いたような臆病者です。
そんな新兵衛にある日、若殿警護の藩命が下されます。渋々受けたものの怯える新兵衛。しかし新兵衛は鑑極流の使い手で秘伝「松風」を伝授された達人と言われていました・・・
危機の素早い察知、それが及ぼす影響を瞬時に把握する能力が高い人ほど臆病になるのだと思います。しかしそんな臆病な人が全てを飲み込み、戦う覚悟を決めた時は恐ろしい。武術とはそうしたものだと思います。
恐れることもないまま、威勢のいい言葉を発しているだけの輩はいざという時には頼りになりません。
ちなみに瓜生新兵衛の使う「松風」は徹底した受けの剣です。
臆病な武士の戦いが描かれています。