新撰組の土方歳三の愛刀はご存知、和泉守兼定です。
土方歳三の人物像が強烈なだけにどうしても刀の方に関心が行きますが、日本刀は刀、鍔、鞘、目貫などの総合芸術です。むしろ持ち主の普段の「想い」は刀以外の刀装具に現れるのではないかと思ったりします。
刀自体がまさに人斬り包丁な訳ですから、殺伐さを中和させるような刀装具を選ぶのは自然な成り行きかも知れません。
若い頃は龍や虎など厳つい刀装具をこれでもかと言わんばかりに飾り付けていました。年齢を重ねると段々と「あ〜随分いきがってたなぁ。カッコ悪いなぁ」と思うようになってきます。
逆に見方によっては静かで殺生を諫めるような意匠の方が刀とのコントラストで恐ろしく感じたりします。
筋者の背中に彫られている刺青なども般若や龍虎より観音様の方がより想像力が働きます。
さて、かの土方歳三の刀装具はどんな感じなのでしょうか?
鞘は会津塗りで、鞘の表に、鳳凰と牡丹唐草が、それぞれ2つずつ描かれています。
牡丹は百花の王です。「幸福」や「高貴」などの意味があります。
また鳳凰は中国の伝説の鳥で「平和」で「幸せな」世界が実現されるときに現れる瑞鳥と言われています。雌雄同体で「夫婦円満」のシンボルにもなってます。
鞘に描かれた鳳凰は、1羽が普通に飛んでいる姿で、もう1羽が見返り鳳凰となっていて、なんだか意味深です。
目貫は枝山椒図です。山椒の花言葉は「健康」です。
また山椒は薬草としての役割もあったようで、土方家の家業のルーツにも繋がっているのかと深読みしたりします。山椒は「厄除け」「魔除け」の意味で用いられることも多く、山椒の赤・強い香り・トゲとすべてが魔を寄せ付けない意味合いも含まれてます。
最後は鍔です。意匠は七夕図です。
留守模様ですね。墨と梶の葉が描かれています。
七月七日の朝、露を集めて墨をすって梶の葉に詩をしたためると、「学芸が上達」するという言い伝えがありました。
留守模様というのも良いですよね。洒落てます。奥ゆかしい表現が素敵です。
ちなみに私の大事にしている目貫はカラスの濡れ羽色の赤銅で杖と笠だけの西行法師留守模様図です。
ちょっと渋すぎますね。
そして鍔に彫られた墨の中には「圓滿」と書かれています。これは夫婦円満の円満とは意味が違い、願い事がすべて満たされるようにという意味です。
どうでしょう。刀装具から土方歳三の想いが伝わってきませんか。