私が稽古に使う差し料は全て直刃です。
「直刃が好きなんですよ」
なんて言うとなんだか勘違いをしてしまう人もいるようで
「この人は真っ直ぐな心の持ち主なの?」
なんて・・・ことはありません(笑)
それに実は直刃の刃文は真っ直ぐではありません。
刀は立てて眺めるのが普通ですが、私の刀は横に倒して眺めます。
直刃は刀の反りに合わせて緩やかに弧を描いています。
その様が水平線に見えて何となく穏やかな気持ちになれます。
昔、丘の上から見た懐かしい水平線が蘇ります。
地鉄の鍛え肌は波濤に見えてきます。
鎬を超えて溢れ出てこないように樋は引いてません。
海は広いな♪ 大きいな♪
月がのぼるし♪ 日は沈む♪
海は大波♪ 青い波♪
ゆれてどこまで続くやら♪
そして夜になると水平線の上には星雲たちが現れて光を放ちます。
刀の中に宇宙があってもいいじゃあないか!(岡本太郎風)
水平線は本来「水平」のはずなのに鳥瞰の水平線はなぜか緩やかな弧を描いているように見える不思議。
直刃なのに直線ではなく曲線になる不思議。
刀の中には森羅万象が存在してます。
やっぱり刀はいいなあ
もしかしたら頭の片隅で昔に読んだ以下の文章が直刃をさらに後押ししているかもしれません。
「焼き巾の広い華やかな、そして焼き刃の硬い刀、これは昔からいわれているごとく戦陣には禁物と思われる。」
「細直刃(ほそすぐは)中直刃(なかすぐは)、その他一たいに焼き巾がせまく、そのうえ匂(におい)出来のもの、世間でよくいう焼きの甘そうな刀、ねむそうだといわれる刀には刃こぼれは少なく、しかもよく切れるものがある。そうした点では古刀は断然よい。新刀でも肥前刀あたりには、その規格があてはまったものがある。」
成瀬関次著『実戦刀譚』
昭和16年に書かれた書物です。
昔、戦場には家にあった古い刀を作り直して軍刀として持って行った人たちも多かったと聞いています。そんな日本刀(軍刀)の修理の記録と考察が中心に書かれています。
軍刀の戦果は修理に来た本人又は代理人の話や自慢話、部隊での伝聞なので、話が過大になる事を前提に読む必要があります。
さらに時代背景から、軍刀の戦果は戦意昂揚にも使われる内容だという事も考慮する必要があるかもしれません。
それでもそんな文章に引っ張られて私の差し料は肥前刀の直刃というわけです。
もしかしたら私は直刃のように素直なのかもしれません。