磯田道史著「日本史を暴く」(中公新書)によれば甲賀忍者の忍術書「軍法間林清陽(ぐんぽうかんりんせいよう)」には忍者が「大勢に取籠められた時の習い」という条があるそうです。
忍者が不覚にも見つかってしまって、大人数の敵に取り囲まれた時の対処法ということになります。
さあどうするのか?
「二人にでも三人にでも、一つにかたまり、太刀先をならべ、敵の右へ右へと切り懸ける。敵を一つの丸(い塊)で討つ」とあるそうです。
磯田氏によれば「武士は左の腰に鞘や脇差がある。左は斬っても倒しにくい。したがって右が敵の弱点である。さらにいえば、右のほうが敵の利き腕である確率が高い。だから忍者は右へ右へ切りかかれと教えた」と書いてあります。
どうでしょうか?
確かに鞘や脇差は障害物になります。しかし致命傷を与える斬り方よりもまず間合いの近い右手右腕を斬ることの方を優先したのではないでしょうか?
右手が利き手だから狙うと言うよりも、右手の間合いが近いからという理由の方が合理的な気がします。
磯田氏が言うように確かに右手への攻撃は有効ですが・・・どちらかと言うと実効性、確実性が導いた教えという気がします。
また右利きの人は右側に体が開くと攻撃精度が落ちると聞いたことがあります。それも「右へ右へ」と斬り懸かれとした理由かもしれません。
さらに「太刀先をならべ」とあるのは切り掛かった一人を敵が刀で防いだ時にもう一人が斬り懸かるという「一つの丸で討つ」集団戦法です。
この攻撃の有効性は幕末の新撰組が実戦で証明しています。
よく時代劇で敵に囲まれて味方同士が背中合わせで戦うシーンを見かけますが、残念ながら現実はだいぶ違うようです。