昔、柔道部に双手刈り(もろてがり)という技が得意な後輩がいました。
相手の両足を両手で抱きかかえて倒す技です。彼の双手刈りに掛かると、もう逃げられません。
瞬時に一本で勝負が決まります。
圧倒的でした。
普通なら両足に組み付いた瞬間、相手が背中側の柔道着を掴んでしまうので、綺麗には倒れません。下手をすると横に投げ飛ばされてしまいます。
しかし彼の双手刈りにかかると相手は棒が倒れるように綺麗に倒れました。
現在の国際柔道のルールでは帯から下の下半身を直接攻撃した場合(いわゆる双手刈りや朽ち木倒しなど)は反則になるらしいです。理由はいろいろあるようですがよくわかりません。
現在、ラグビーワールドカップが行われていますが、いわゆるラグビーのタックルは双手刈りによく似ています。
先日、NHK番組の「明鏡止水〜武のKAMIWAZA〜」でラグビーのタックルを武術的に解説する場面がありました。格闘家が説明した肩甲骨から腕の内旋を使って押し下げながらする「タックル」に現役ラガーマンたちは新鮮な驚きを持ったようです。
また低い姿勢で向かって行くと相手に動きを察知されてしまうので、直前になってから姿勢を低くするなど、当時、双手刈りを後輩に指導していた柔道部顧問の先生の説明と一致します。
おそらく後輩も姿勢を低くする時に膝の力を抜いて予備動作の無い動きをしていたのだろうと思います。とにかく見事な双手刈りでした。
しかし残念ながら彼には他に得意技がありませんでした。
双手刈りは一度失敗するとその後は相手が警戒して2回目の双手刈りが成功する確率はグッと低くなります。他に得意技を持たなかった彼はその間に負けてしまうことが多かったように記憶しています。
やはり得意技は合わせ技でこそ効果を発揮するようです。
野球の速球一本や相撲の突っ張り一本ではやはり勝つのはなかなか難しい・・・?
まさかラグビーと武術がこんなところで出会うとは思いもしませんでした。
久しぶりに双手刈りの後輩の顔を思い出せたのもラグビーワールドカップのお陰かも知れません。
その後輩もとうに還暦を超えているはずです。