小さい頃、親にそろばん塾に通わせられてました。まだ電卓などない時代です。
しかし私はそろばんがイヤでイヤで・・・随分とサボりました(笑)
2年ほど通いましたが、一番下の級(当時は9級が一番下でした)さえも取れませんでした。一緒に入った同じような歳の子たちは級どころか段さえ取るような状態になっているのを見て、さすがに呆れた親は通わせるのを諦めたようです。
ただ塾の先生とは仲良くなって、塾が終わった後や塾が休みの日には先生の自宅に呼ばれて二人で五目並べをして遊んでました。そして五目並べの後は先生の奥さんにご飯やおやつをご馳走してもらいました。
不思議なことにこの先生は五目並べがとても弱かったんです。負けると「もう一回!」と言っては何度も対戦しました。あまりにも「もう一回!」が多かったので、最後には帰りたくてワザと負けてた記憶があります。
先生はそろばんを教えている時「願いましては〜」と言ってから、私たちがそろばんを弾いているのに、そろばんなど置かずに腕組みをしたままでした。
そして「ご名算〜!」
なんでわかるの?
そう、暗算なんです。この暗算は子供心にもびっくりするほどで、ものすごい桁数の数でも自由自在でした。
ある時、私は五目並べをしながら先生に聞いてみました。
「どうしたらあんなに沢山の桁の計算ができるの?」
すると先生は
「頭の中にそろばんがあるのさ。それを動かしているので、どんなに沢山の桁でも一瞬で正確に動かせるんだよ」
「すご〜い!」
その時のことはよく覚えています。
目の前が揺れたかと思うほど心に響く出来事でした。
「頭の中はなんでも自由に出来るんだ!」
これはいろんな意味でその後の私のベースになったと思っています。
将棋や囲碁も同じだと言います。
ではなんで先生は五目並べの「暗算」が出来なかったのか?
大人になってからそのことを振り返った時、あれは1人だけそろばんがダメだった私のことを気にかけてくれたんだと気がつきました。
さぞかしこの子は落ち込んでいるだろうと・・・そろばんに対する思いがなかったので私は先生が思うほど気にしてはいなかったのですが・・・
残念ながら現在に至るまで私のそろばんはダメなままですが、その時の先生の優しさは今でも私の記憶に残ってます。
昔はそういう優しい大人がたくさんいたような気がします。
静稽会は2024年4月1日から「永久若者支援」として39歳以下の月会費を5000円から3000円に引き下げました。
稽古の楽しさを知って欲しいという静稽会の大人たちの思いが若い人たちに少しでも届けばいいなあと思っています。