重さの正体

映画化もされた椎名誠の小説「倉庫作業員」の中にこんなことが書いてあります。

 

「真鍮板は長さ1メートル、幅50センチの規格で0.1ミリから5ミリまで細かく製品化されていた。-中略-

倉庫作業員はこれをひとつずつかつぎ、トラックの荷台から倉庫の指定棚までの間を何度も往復して運んだ。二、三度体験すると、この作業は厚い板材ほど安定し、楽で安全だが、薄くなるにつれておそろしく厄介で危険だ、ということがわかってきた」

 

「0.1ミリから0.5ミリぐらいまでの真鍮板は紙よりも薄いかんじで、それらがいくら百枚二百枚と重ねられていてもすべてがぐにゃりぐにゃりと揺れ動き、両手でかかえていても安定しないほどだった」

 

同じ重量の物体でも状態によって軽く感じたり、重く感じたりします。

経験がある人もいるかと思いますが、酔っ払って意識のない人を担ぐのは結構骨が折れたります。

 

安定しない状態のものが重く感じるということには武術的なヒントが含まれています。

 

また、初心者の方によくこんなことを試してもらいます。

「まず木刀を腕を伸ばしたまま脇の下あたりで水平斬りにして止めて下さい。次はそのまま木刀を立ててみて下さい。最後にそのまま体の近くに近づけてみて下さい。木刀の重さはどう変わりましたか?」

「さらに木刀を立てる時に手の位置を動かさないで立てるのと木刀の真ん中あたりを円の中心にして立てるのとでは違いはありますか?」

 

同じ木刀も持ち方や位置、動かし方によって感じる重さが違うことを知ってもらいます。それを踏まえてこの組み立ての中で振りかぶりと斬りを説明していきます。

 

重さの正体を知ってその使い方を工夫すると同じ重さのものでも自分には軽く、相手には重く感じるようになります。