先日、二十六世観世宗家観世清和氏の能を観る機会がありました。
普段から能を観る機会も少なく、さほど知識もない私の関心はもっぱら観世清和氏の「ハコビ」でした。
「ハコビ」とは能の歩法のことです。
歩法は武術においても大事です。
観世清和氏の「ハコビ」はとても人間技とは思えないものでした。
まるで幽霊が漂うように移動します。すぅ〜と何の前触れもなく体が真っ直ぐ前に進むのを見て鳥肌が立ちました。
柳生新陰流などでは「帆に風を受けて進む舟のごとく歩む」(風帆の位)と言いますが、それとはどこか違う気がします。
この世のものとは思えない空気を纏っています。その空気が揺らいで見えました。そこにいて、そこにいない存在が漂うかのような「ハコビ」です。
特に驚いたのは廻る動きです。
微妙に方向転換しながら廻る動きは進む方向の慣性と外側に遠心力が働くために直進歩行に比べて複雑です。
それを姿勢を崩すことなく、滞ることなく、偏ることなく難なくやってます。
居合でも方向転換のある形があります。難しいです。
普通はどうしても一瞬止まってしまいます。溜めが出ます。姿勢が崩れます。止まらないで形を行うためには特殊な技術とそれを習得するための長い稽古が必要になります。
観世清和氏は一体どれほどの稽古を積んだのでしょうか?
才能にも助けられたとは言え、おそらく幼少の頃から今日まで気の遠くなるような時間を稽古に費やし続けたのだろうと思います。
継承の重圧も大変なものだと想像しますが、纏っている空気感は厳しい稽古で体に刻み込まれた傷口から重圧で漏れ出てくるものなのかもしれません。
ちなみに観世清和氏は私よりも年下。
のほほ〜んと生きてきた私とは随分違います。
まさに眼福でありました!
これからの糧にしたいと思います。